【金継ぎ】割れた食器を救済せよ:その2
金継ぎ沼のつづき。セットを購入したのはいいが、実はその後、なんと3年ほど何もしないまま放置していた。金継ぎは「接合」「刻苧付け」「錆漆」など、全11工程にもおよび、その工程ひとつひとつが数日から3週間くらいかかる。そのあまりの複雑さと長さに、あっけなく挫折、というのが実際のところ。「できる気がしねえっ!」
ようやく重い腰をあげたきっかけは、もちろん「茶碗蒸し丼が割れる事件」もあるが、最近の断捨離ブーム(キッチンに限る)の影響も。何年も使わない食器や調理器具の整理をしていたところ、このセットがコールドスリープの食器とともに現れたのだ。
ちなみに、セット同梱の漆は、冷蔵庫で保存していた。「開封後は早めにお使いください」と、不穏な記載が気になるが、開封していないのでセーフである。漆は「透漆」と「弁柄漆」の2種類。透漆は小麦粉や砥の粉をまぜて、接着剤やパテのように使う。いわゆる「うるし色」の弁柄漆は仕上げ用だ。
写真の器はそれほど高価なものではないが、練習用にとっておいた。割れた断面をよく洗い、透漆を塗って乾燥したら、透漆と小麦粉をまぜた「麦漆」を接着剤に、接合する。すぐにはくっつかないので、タコ糸やセロテープで補強するが、平面じゃないのでなかなか難しい。これを3週間放置。
完全に固まったら「刻苧付け(透漆+刻苧綿+木粉+ごはんつぶ)」で、欠損部分を、パテの要領で埋める。その後、「錆付け」「塗り(弁柄漆)」「金粉」と、徐々に工程をすすめる。
2ヶ月ほどかけて、ようやく完成。よく見ると隠しきれないキズやムラが目立ち、割れた部分が段差になってしまって、決して美しい仕上がりとは言えない。が、完全に元通りになるのではなく、新しい、かつ唯一無二の食器として蘇るのが「金継ぎ」の魅力なのかもしれない。そして、使えなくなった器が復活するのはシンプルに有り難い。
治った食器は、もちろん通常利用可能。ただ、怖いので高温・高湿環境下での利用はガマン。洗うときも、丁寧に。ただの卵黄の味噌漬けも、金継ぎ効果でなんか得する高級感。気のせいか。
本来のターゲットだった、桜色の茶碗も、なんとか修正。比べると、ダイナミックに割れていたほうが「金継ぎ感」が強調されて、かっこよく見えてしまう。気のせいか。
さて、もうひとつ。悪魔超人にバラバラにされたミートくん状態のほうも、丁寧に透漆を塗って、接合する。ところでこの作業、以前にも似たことをやった記憶がある。なんだろう?「あ、あれや。地球儀ジグソーパズルや」
ミートくんから、ブラックジャックレベルまで復活。これは「錆付け」の状態。なんとか器の形を保っているが、難易度は現時点で最高。そして、このほかにも例のヤツが残っている。しかし、この時点ですでに2つの金継ぎを終えた俺は、すでに勝利を確信し余裕綽々で金継ぎセットを片付けていたところ、「あれ、金粉少なくね???」…そう、セットに付属の金粉の量は極めて微量。加えて無駄が多く雑な作業の結果、器2つ修復したところで、ほとんどなくなってしまったのだ。これでは、ブラックジャックの修復は難しいかもしれない。誰か、誰か黒男くんに皮膚を提供…じゃない、オラに金粉を分けてくれっ!
…金継ぎ沼は終わらない。